この連休、私はテレビは全然見ていないのですが、本日たまたまある場所で、「朝日」「読売」「毎日」「日経」の四紙を同時に手にする機会があって、ざっと見てみましたが、第一面のコラム(「天声人語」など)で、天皇代替わりのことに触れていないのは、「朝日」だけ、というのが面白かったです。そのことにちょっと触発されて、以下の小話を1時間くらいで創作してみました。
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天皇の代替わりの初日に ある親子三人の会話
子:お父さん、なんで新しい天皇にかわる時に、お休みになるの?
父:正月といっしょで、目出度いから、皆で祝うためだよ。
子:何かいいことあるの?
母:別にないわよ。休みが増えるだけ。正月といっしょよ。
父:お母さん、それじゃ説明になってないでしょ。1年の始めは、皆いっしょに気持ちが切り替わって、嬉しいだろ。だから祝うんだよ。
母:酒飲んで寝てるだけの誰かさんも、そうできて嬉しいわけね。
父:お母さん……。
子:じゃあ、祝わない人もいていいの?
父:そりゃ、そこまで強制できないからね……。でも、こんな休みはいらないよっ、て言うへそ曲がりもいるんだよな、世の中には。
母:昔だったら非国民ね。
子:エッ、なにそれ?ヒコクミン?
母:あんたなんか日本人じゃないわよ、天皇のもとに皆がいっしょになって国をつくるのに、それに協力しない悪者だ、みたいな意味よ。
父:そうそう、非国民って周りから言われると、警察が来て引っ張っていった、て言うよね。おお、コワ。
母:今もちょっと怖いところあるんじゃないの。だって、天皇や皇族の人に〇〇さま、というように「さま」を付けずに呼んだら、周りから睨まれそうだもん。
子:テレビでも、いつも「〇〇さま」って言ってるよ。
父:いいじゃないか、日本人皆が敬う気持ちを持つ人がいるって、悪いことじゃないよ。
子:僕も「〇〇さま」って呼ばれたら、偉くなったってことなの?
母:別に。誰でもメールや葉書で、宛名には様って付けるじゃない。皇族だって皆、同じ人間ってことよ。
父:母さん、それじゃ説明になっていないでしょ。同じ人間なんだけど、ちょっと偉いってことだよ。
子:偉いって、ノーベル賞でもとれるかもしれないから?
父:ハハハ、おまえ、天皇が賞をとってどうする? 賞を渡す側なんだよ。
母:でもあんなに至れりつくせりの生活しているのだから、一つや二つ賞を取れるくらいのこと、やってくれたっていいわよね……。
父:お母さん……。公務じゃないか公務!
子:エッ、何そのコウムって? コウムをすると偉いの?
父:いや、違う、あの、エッーと、公務は義務で、やらなきゃいけないことなの。
子:じゃ宿題みたいなもの?
父:アホか、お前は。天皇にも仕事があるってことだよ。
母:その仕事をするためにお金もらってるなら、お父さんと同じよね。別に偉くはないわ。
父:ああもうお前らは、本当にわからんことを言うよな。それに俺だって仕事している以上、ちょっとは偉いとは思わんのか?
母:毎日、ご苦労さま。
子:僕はお父さんは偉いと思うよ。
父:そうか、嬉しいな。なんでそう思うのかな?
子:だって時々宿題やってくれるから。
父:おいおい……。
母:天皇も国の宿題をやってくれたら、偉いって言えるかな。
子:国の宿題?……
父:母さん、同じ人間なんだから、天皇だけにそんなことおしつけちゃダメでしょう。
母:あら、人間になったのは、ついこの間ではなかったかしら?
子:エッ、前は人間じゃなかったの!?
母:そうなの、わざわざ人間宣言というのをして、人間になったのよ。
子:なんかすごい力をもったガンダムみたいなものだったの?
母:まさか。そんなに勇ましくない。
子:じゃあ、天使みたいなもの?
母:フフ、そんな可愛くない。天使なんて言う君はちょっと可愛いけど。
子:ワ~イ。でも、じゃあ、何だったの?
母:神よ、神様の神。第二次世界大戦って知ってるでしょ。その戦争に日本が負けるまでは、生き神様といって、皆が神様だと思っていたの。
子:ええ、すごい! 仏様とかイエス・キリストとかといっしょなんだ。じゃあ、銅像とか皆の家の中にあったりしたの?
母:いいこと聞くわね。そうなの、銅像じゃないけど、御真影とか言って、写真が座敷の鴨居のところなんかに飾ってあって、祀っていたの。学校とかにも必ずあったんだって。
子:なんだ、写真か。コピー用紙の紙とあまりかわらない。紙の神様。
母:ハハハ、くだらないダジャレを言うでない。
父:戦争に負けて、国が決めた公務だけをすることになったんだよ。
子:戦争に負けたら、人間になっちゃうの? もったいない……。
父:コラコラ、戦争でいろいろ他の国にも迷惑をかけてしまったことを反省して、国民といっしょに平和を大事にすることにしたんだよ。
子:ふーん。
母:でも、本当に反省したのかしら?
父:ええ?
母:だって、私忘れないわよ。いつだったか昭和天皇が初めてアメリカを訪問した時、記者に戦争責任について尋ねられて、「そういう言葉のアヤについては、私はそういう文学方面はあまり研究もしていないのでよくわかりませんから、そういう問題についてはお答えが出来かねます」って答えたよね。
父:あったっけ、そんなこと……。
母:私、当時、中学生だったけど、あんまり頭に来たから、ホームステイで親しくなった韓国のお友達にすぐ電話でこのことを伝えたわ。そしたら、彼女、「戦争の時に死んだ、私のおじいちゃんが生きていてそれを聞いたら、どんな気持ちになるか」……って、泣いてたわよ。
父:いろいろあっただろうからな、戦争の時は……。でも、先日退位した天皇や今の天皇が悪いわけじゃない。
母:それはそうかもしれないけれど、寄ってたかって、崇め奉られたら、反省したくてもできないんじゃないかしら。そういのが私は嫌なの。
子:僕が天皇になって、ちゃんと反省してあげる!
父:バカか、お前は! ああ、でもなんだか俺も、もやもやしてきて、なんだか妙な気分だよ。頭が文学してるって言うか……。
母:お父さん、文学頭になってるって。
子:ひゃっほー、じゃあ、連休の宿題の読書感想文、よろしくね!
母:よろしく!
父:おいおい、お前たちなぁ。