交換日記のこと(5)

思い出話

交換日記は1年弱で終わり、その後2人は廊下ですれ違えば、会釈はするけれど、話し込むことなどはしなくなった。二人が精一杯のきれいな小さな文字を手書きで記した、その交換日記のノートは、私の手元に残った。

私がAさんの死を知ったのは、今から15年ほど前だ。いつもは届いても興味がないからすぐ捨ててしまう「同窓会誌」なのだが、ほんの偶然から開いたページに、「10周年を偲ぶ」小さな記事が目に入った。ご遺族と同級生数名がAさんのお墓参りをしたとのことが記されていた。その当時では女性ではまだその数が非常に少ない、ある国家資格の公職に就き、まさにこれから活躍が始まるという1年目に交通事故で亡くなったのだという。30歳を少し超えたばかりだった。

ご遺族がこの交換日記を目にすれば、少女時代のAさんの姿を偲ぶ、大きなよすがになりはしまいか―しばらくの間、連絡をとって返すべきかどうかで悩んだが、連絡をとるのはしないことにした。私自身はこれを読み返すことはまったくないけれど、これを私の手元に大切に取っておく、ということでAさんへのささやかな供養になるように思うのだ。交換日記をつけた日々―その日々のなかのAさんの、落ち着いて、でも少し恥ずかしそうに話すその姿は、そしてゆっくり頷くその姿は、私の心の中にずっと生きているように思うのだ。

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