あなたには、身につけるもので愛用のものが何かあるだろうか。一張羅の服、時計やメガネ、アクセサリーを挙げる人などいろいろいると思うが、私の場合は、帽子である。
これは6年前に、連れ合いが誕生日にプレゼントしてくれたもので、日差しの強い日には欠かせないものとなっている。軽くて、メッシュが入っていて通気性もよく、材質がいいのか丈夫で、文句のつけようのない製品だ。「ザ・ノース・フェイス」というアウトドア用品のブランドの一品で、そのブランド名を「北面の武士の北面だ」と勝手に置き換えて覚えるようにしている。
ところが、この大のお気に入りの帽子を、私はこれまで4度も紛失したことがあるのだ。
その時はまったく気づかないのだが、電車に乗ろうとして、帽子を脱いであわててカバンに入れたり、ポケットに押し込んだりする際に、落としてしまったり、どこかで着席した際に、何気なく手元に置いしまし、持ち帰るのを忘れたり……ということのようなのだ。
「あれっ、帽子、どこに行ったっけ……?」と家を出ようとして気づいた時には、もう遅い。「あっ、昨日どこかで落としたか、置き忘れたかだ」と、その時のことを必死で思い返そうとするが、はっきりはわからない。とにかく、思い当たる所に電話をするが、「見当たりません」の返事ばかり。もうこれはあとは電車しかないな、と諦め気味になって、利用した各線の遺失物係に電話をして確認する。……ということを、じつはこれまで1年おきくらいに4度も繰り返しているのだ。
つい先日がその4回目だったのだが、帽子を紛失した日に足を運んだ理髪店やスーパーにも電話し、訪れもしたが、「見当たらず」の返事をもらった時には、「今回はさすがにダメだ」と嘆息をつくばかで、諦めそうになった。横にいた連れ合いが「とにかく駅に連絡してみるのです」と言って、最寄りの駅(東急線)に携帯で電話をかけてくれた。「終点の駅にある遺失物係につなぎますから」との返事をもらい、しばらくして、その遺失物係から「それらしい届け物があるみたいです」との連絡が入った。
何と、4度目も戻ってきたのだ! 奇跡のような話ではないか。
その日は土曜日だったので、みなとみらい線の元町・中華街駅に赴き、我が愛用の帽子を再び手にすることとなった。数年ぶりに訪れた中華街で、感謝の気持ちを込めて、連れ合いに中華料理をご馳走した。
家に帰って、5度目の紛失が決して起こらないように、ある工夫を施した。それが何であるかは、今は言わないでおく。私がリュックをしょっている姿を目にしたら、それに気づく人がいるかもしれない……。