老齢期の身体は医学の学びどころ

健康

齢九十を越えて、背筋はピンとして、声にハリがあり、スタスタと歩けて、矍鑠(かくしゃく)としている―というのは誰もが理想とすることろだろうが、そんな人は10万人に1人から2人くらいの、例外中の例外で、自分がそうなれるなどと考えないほうがいいし、もし本気でそう望むなら、それなりの備えがないといけない(どんなに備えても無理である場合も多いだろう)。

老いは身体のいたるところに現れてきて、誰もそれを避けることはできない(うまく「遅らせる」ことができるだけだろう)。視力が低下し(白内障などになり)、食が細くなり、皮膚はカサカサになり、声もかすれがち。背中は曲がり始めて(身長さえ縮む)、歩いても息切れがし、排尿に違和感を覚え、耳も遠くなり、もちろん髪の毛も薄くなり、変ところからひょろひょろと毛が生えてきたりもする……これらすべてがほぼ同時並行で進んでいく。

「90歳で矍鑠」を実現するポイントは、一般化して言えるものもあるかもしれないが、私の考えでは、アンチエイジングのための医学的助言の類は、全部はとてもやり切れるものではないし(「生きるために健康を保つ」から「健康を保つために生きる」への逆転現象)、どうも自分にはあてはならないように思えるものも少なくない。個々人がこれまでの病歴や体質や生活習慣といった「自分の状況」を考えて、自分にふさわしい実行可能な対処法を見つけるしかないように思えるのだ。

私の場合、例えばお酒について言うなら、もともとお酒には強い体質だと思えるが、この歳になると、
・1週間に2日ほど休肝日を入れる
・本当に気に入ったお酒を、決して多くない量で、夕食時に連れ合いと楽しくおしゃべりながら飲む
を実行することがポイントだとわかってくる。

また、もともと「喉」を痛めやすい―大きな声でしゃべるのが癖になっているから?―体質で、最近改めて「いったん喉を痛めると以前よりずっと治りが遅くなるなあ」と自覚したので、起床時と寝る前に携帯タイプの吸入器を使って「喉を潤す」ことを始めたが、これがなかなかいいように思っている。「声」は自分の商売道具でもあるので、大切にしなければ、と自分を戒めている。

そこで重要になってくるのが、医学的知識である。視覚、聴覚、筋力や骨、発声や呼吸……などの老化がどういうメカニズムで起きているのかをできるだけ正確に知り、「自分の状況」と照らし合わせて、何をするのが老化の進行抑制に効果的かを自分で見定めて実行していく、という科学的態度だ。もちろん医者に相談してもいいが、それはあくまで参考であり、決めるのは自分だ。

というわけで、60歳や70歳を迎える頃は、小学校から大学まで、医学についてほとんど何も勉強しなかっただろう多くの人にとって、医学を勉強するまたとないチャンスですよ、と言ってみたい。なにしろ、自分の身体を対象にして実地に学べるのだから。幸い、ネットにはそうした類の情報がかなりたくさんあるし、NHKにも『チョイス@病気になったとき』や『あさイチ』などいい番組もある。古本屋で、しっかりした医学辞典を一冊買って備えておくのもいいだろう。

「自分の老化を語る」という語り合いの場が実現できればそれが一番いいように思うが、そのハードルは高いだろう……。

タイトルとURLをコピーしました