6月13日(月) ベルン
昨晩は早く寝たので、今朝は朝4時に起床。驚いたのは、朝5時、つまり夜が明けてくる頃に、3種類ほどの鳥の声が聞こえてきたことだ。首都のど真ん中のホテルでこんな感じだとすると、市のいたるところに小さな森がたくさんあるのかもしれない。午前5時から7時までの2時間、「電磁調理器使用に伴う低周波磁場の被曝量計量モデル」を考える。朝食をホテルでとって8時半に出かける用意ができた。朝食に出たパンがやたら美味しい。ついついたくさん食べてしまう。ベルンの中心街は地図で見る限り2時間もあれば一周できそうな感じだったが、ホテルから出て歩き始めて、それが本当だとわかる。道に沿って並んでいる建物や家屋のきれいなこと!
1階部分はアーケードで連なっていて(全部あわせると長さが6キロにもなって、ヨーロッパで最長とのこと)、しゃれた感じのお店が延々と続く。大聖堂や時計台をはじめとする背の高い中世の建物、そして道路に点在する噴水や彫像がアクセントをつけ、どの建物も全体と調和を保ちつつ一つ一つが目を引く要素ももっている。まるで一人の人間が設計したものが長い時間を経て熟成したかのような落ち着きとしっくり感がある。世界遺産に登録されるのも、むべなるかな。午前9時半頃にあいにく雨が降り出し、バラ園を訪れたときにはずいぶん降られたが、その後はさっと雨が引き、少々暑く感じるほどに晴れ上がった。
道行く人々を見下ろす位置にあるレストランのテラスで雨上がりの涼しい風に吹かれながら昼食をとり、午後にはベルン自然史博物館に出かけた。(ベルンの施設は月曜日は休館、もしくは午後2時からの開館となっていて、この自然史博物館もそうだった。)動物の剥製が多いことは前もって知っていたが、いやー、この博物館はすごい。ロンドンの自然史博物館をある面では超えていると思う。剥製技術の精巧さは言うに及ばず、網羅的に生物の種を示そうとする収集へのこだわり、内部の解剖や骨格、運動の様子なども含めて、生きている身体の様子や周りの環境とのやりとりをあの手この手を使って再現させようという点など、面白い博物館のお手本のような展示がいくつもあって、びっくりした。蟻を何千(何万?)匹も飼って巣を作らせ、その活動の様子を見せるために透明なチューブで結んだ3つほどの大きな透明なケースに住まわせて行き来させるやり方には圧倒された(人によっては猛烈な数の蟻が蠢く姿を見て、気持ち悪くなるでしょう)。生きたカブトガニも初めて目にすることができた。アンモナイトや羊歯類の化石の数や大きさも半端ではない。巨大な哺乳類、非常に多数の鳥類、そして超精巧な製作技術を要するようにみえる両生類など小さな生き物の剥製や骨格標本……いずれも作る者の執念を感じさせるこだわりの品々だった。(説明がドイツ語しかなかったのは残念。)
ベルンの街の主だった通りを歩きまわってすごした一日だったが、東京の繁華街のどこと比べても人の数がうんと少なくて、混雑した感じがまったくないのは、うらやましい限りだ。アーレ川が中心街全体をぐるっと取り囲むようにU字型に流れ、その外側にはまた街全部を覆うように、小高い丘(というか山)に緑鮮やかな木々が生い茂る。至る所に赤いゼラニウムの花が咲き、家々の屋根はすべて赤茶けた色の煉瓦屋根に統一されている。落ち着いた時間の流れを感じるのは、こうした中世の風情が残っているためだろうか? こんな街に住んでみたい、と思わないではいられない。