暑い夏の日の一服の清涼剤となる音楽を……。
私は、コンサートにあまり行かず、音楽雑誌を読む習慣もない―書店で時々立ち読みしていた『レコード芸術』もいつの間にか廃刊になっていた―ので、クラシック音楽の最近の動向を知るすべは、自分の好みで「ブックマーク」に入れているいくつかの音楽関連ブログか、有料で契約している「ナクソス・ミュージック・ライブラリー」(NML)か(これについては「2022年私のおすすめ3作品」で触れた)、HMVのオンラインショッピングの「クラシック情報>注目の商品情報」しかない。
しかし一昔前と違って、今は若い一流の演奏家たちは、必ずといっていいくらい自身のウェブサイトを開設しているので―管理はおそらく契約している音楽事務所が行っている場合が多いだろう―、偶然出会った演奏にひどく心惹かれるようなことがあると、その演奏家のウェブサイトをチェックしてみて、「そうか、こんな人なら、これからもずっと注目していこう」などと自分なりの判断を下すことが、うんとしやすくなってきている、と言えるだろうか。
今日は、そうした出会いで知ることとなった、ともに1991年生まれの女性のヴァイオリニストとピアニストを紹介しよう。
一人は、石上真由子さん。
音大ではなく、医学校出身という異色の経歴を持つ方だが、デビューCDでヤナーチェクのソナタを取り上げることからして、普通ではない。演奏の迫力も。
12年前に、大植英次の指揮で大阪フィルと競演したラヴェルの「ツィガーヌ」も、現在、石上さんが自身でアンサンブルを主宰して活動していることが納得させられる、「共演」するのが好きでたまらないという感じが伝わってくる演奏だ。楽しそう!
もう一人は、ドイツ人のピアニスト、マリー・ローザ・ギュンター。
私はNMLを使って、気になる作曲家の年譜を追いながら主だった曲の解釈を自分なりに固めていくために、何種類もの演奏の「聴き比べ」をすることがある。先日、アントン・ウェーベルンの「ピアノのための変奏曲
Op.27」でそれを行っていたところ、気になる演奏に出会い、それがこの若い女性ピアニストのソロとしては2枚目のCDのなかの1曲で、なんとベートヴェンのピアノ・ソナタ第29番
変ロ長調 「ハンマークラヴィーア」と「6つのバガテル」Op. 126の間にこの変奏曲が挟んである。
1枚目はバッハのゴールドベルク変奏曲だから、立て続けに大曲・難曲を入れたことになる。ウェブサイトではベートヴェンの第30番のソナタも公開されているが、
非常に堂に入った演奏で、ここでも、終楽章がそうなのだが―私がベートーヴェンのピアノのなかで一番好きな曲で弾けもしないのに鍵盤をいじくって何十時間も費やした曲―「変奏曲」への一種の傾倒が感じられる。
私はこのような「自分なりのコンセプト」を持って曲を選び演奏を組み立てていこうとする人が好きで、このピアニストの今後に大いに注目したいと思う。
嬉しかったのは、「MEDIA」のコーナー
の最後にドビュッシーの「練習曲集」の第11曲目「アルペッジョのための」が収められていること。
これこそ、星の数ほどもあるあらゆるピアノ曲のなかで私が一番好きな曲なのだ。内田光子を超える演奏はない、と長年思っていたところに、この素晴らしい演奏を目にして、そして「ひょっとしたらこのピアニスト、曲の好みが私と非常に似ているのかもしれないな」と思わされたこともあって、とてもとても嬉しかったのだ。


