『日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実』を読んで

本の話

戦争の理不尽さは、罪のない民間人や子どもを巻き添えにすることに一番あらわれていて、現地報道の多くもそこに目を向けることになるが、長期化した場合に、駆り出された兵士たちにどれほど悲惨なことが起こるかについても、言い落すわけにはいかないだろう。

最近偶然手に入れて読んだ『日本軍兵士―アジア・太平洋戦争の現実』(吉田裕・著、中公新書2017年)は、その「兵士の目線・立ち位置」からみた戦争の実態を描いた、貴重な研究だと思う。日中・太平洋戦争において、310万人に及ぶ日本人犠牲者のうちのその9割が1944年以降に発生していることからわかるのは、長期化し、追い詰められ、物資がますます不足するなかで、異様な死に方をする兵士たちがうなぎ登りに増えていったことだ。

餓死、病死、精神疾患、そして貨物船の劣化(スピードが出せない、など)がすすむなかでの膨大な数の海没死(潜水艦による撃沈が多い)、自殺(上級兵からの私的制裁が原因のことも多い)、軍医たちによる動けなくなった病床兵の「処置」(つまり殺すこと)、覚醒剤(ヒロポン)の多用、蔓延する結核やマラリヤや虫歯、敗戦後も長期にわたって苦しむことになる水虫(「半年間も軍靴を履いたままだった」との証言もある)……

こうした否定しようのない、悲惨な「死の現場」の事実を、常に頭に入れて、戦争というもののとてつもない愚かさに、私たちは向き合っていかねばならないのだろう。

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