字をひっくり返して読んでしまったり、別の読み方で勝手に読んでしまう悪い癖が、私にはある。自分のなかだけで収まっていればいいが、時に、その言葉を口にして恥をかくことがある。
韜晦(とうかい)を勝手にひっくり返して「かいとう」と覚えていて、昔、ある親しい友人と文学談義を交わした時に、「あの作家のかいとう癖にはついていけない……」などと話して、不審な顔をされたことがある。
「忘備録」(誤)か「備忘録」(正)か、未だに迷うことがある。どっちも可とする説もあるけれど……。
フランスの有名な伝記作家にアンリ・トロワイヤという人がいるが、つい最近まで「トワイロヤ」と覚えていた。あることを調べるついでに、その作家のことを事典で引いて確認しようとしたら、出て来なかったので、初めて自分の間違いに気付かされた。固有名詞のカタカナでは、私にはこの種の間違いがかなり多くて、恥ずかしくてとても書けない。
「BICカメラ」をつい最近まで「BIGカメラ」だと思っていて、これも友人に指摘されて初めて気づいた。まあこの類は「ブダペスト」(正)を「ブタペスト」(誤)という人がいまだにたくさんいるから、許容範囲だと言えようか。
100人くらいの人にアンケートをとって、こうした「覚え間違い」を集めたら、かなり興味深い結果が出るのではないか。