初キスの思い出(?)

思い出話


自分が初めてキスをした(された)時のことを―もちろん好意を持った相手に対して(相手から)のものであるが―、人はどれくらい鮮明に覚えているものなのだろうか?

おそらく、その時期もいろいろだろうし(思春期が一番多いのだろうか?)、記憶に残る鮮明度もばらばらだと思えるのだが、それを人に語りたいと思えるような思い出になっている人はかなり稀であるような気がする。思い出すだけでも気恥ずかしくて、人に語るなんてとんでもない……という感じの人が多いのではないか。

私は、幸か不幸か、気恥ずかしくもなんともない、でも妙に鮮烈な体験としてその「初キス」があるので、バカ話みたいなものだが、それを語ってみよう。

それはなんと、来年には小学校に上がる年齢であった、幼稚園でのこと。その幼稚園は同名の小学校と併設されていて、小学校の運動場が幼稚園の棟(平屋)の北側の各窓からそのまま覗き込める造りになっていた。なので、小学生たちが遊んだり運動をしたりする姿がそのまま目に入る。

同じクラスにNさんという女の子がいた。その年齢にしてはちょっと大柄で、目鼻立ちもくっきりした、なかなか勝ち気な目立つ子だった。私はたぶんかなりおとなしい子で、別に目立つ存在ではなかったと思うのだが、なぜだかある日、そのNさんと一緒に並んで―椅子の上に膝を立てて―小学校の運動場を眺めていた。

するとサッカーのような球技をしていた小学校5,6年生の男子生徒2人が近寄ってきて、
「おまえら、仲良いな」「好きなんだろう?」……
と囃し立てた。
私とNさんがそれに対してどう答えたかはまったく思えていないが、その男子のうちの一人が、
「ほんとに好きだったらキスしてみろ」
とけしかけたところ、なんとNさんが私の頬にギュッといわんばかりに強く唇を、しばらくの間押し付けたのである。
「ウワッ、こいつら本当にキスしてるわ……」
と男の子たちの方が恐れをなしたのか、そそくさと退散してしまった。

ひどく驚いただろう私とは対照的に、唇を離したNさんは落ち着いた表情であったように思われるが、そのあたりの記憶は曖昧だ。

ただそれだけのことなのだが、自分の頬に残ったそのキスの感触が強烈だったことはよく覚えている。

小学校ではNさんと同級になることはなかったが、彼女はスポーツに秀でていて、はやり校内では目立つ生徒だった。何かの機会に言葉を交わすこともあったが、「初キス」のことに触れたことは、むろん、ない。

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