私が勝手に自分で「これは一種の法則だ」と思っていることの一つに、「10秒,60秒,360秒の法則」というのがある。
ある対象に出会って、「これは自分にとって意味がある、重要だ、美しい、……」と、その価値を判断するまでにかかる時間を考えてみると、視覚では10秒、聴覚では60秒、文字情報では360秒(ページ数で言うと10ページ前後)くらいになるのではないか、というものである。
絵画や景色やあるいは(例えば男性なら異性である女性の)容姿を見て、およそ自分にとって、「本当に魅力的だ」と感じ入るまでの時間は、10秒程度ではないだろうか。10秒間見つめてピンとこないようでは、その絵画も景色も容姿も、心ときめかすものではないと判断できる。どんなに周りの人が「名画だ」と評価していても、自分にとっては名画とは言えないことになる。
音楽についても同様だ。ある曲のある演奏を耳にして、最初から60秒が経った時点で「面白い」と感じることができなければ、その曲やその演奏は、自分にとって素通りしてもかまわない―がんばって聴き通してもあまり意味のない―ものになっている、と判断できる。
「読む」という行為については、およそ5,6分、10ページくらいがそうした判断が下せる目安となるのではないか。易し目の読み物なら10ページをさらっと、難し目のものなら5,6分をかけてじっくりと、ということになると思うが、およそそのあたりで、読み続ける価値があるかないかの判別できるように思われる。
ただし、受け取る側の自分も、見ること、聴くこと、読むことでの経験を重ねることで、当然成長する。したがって、以前は「面白くない」と思って切り捨てたものが、「面白い」と思えるようになることもある(その逆もあるだろう)。そうではあっても、この「10秒,60秒,360秒の法則」が使えることには変わりはない。
認知心理学に関わってくるだろう、興味深い事柄だと、自分では思っている。