発酵食が面白い

環境

目黒区の広報誌に短い連載を書いている。

隔月で1000字、通しの標題を『「手作り」から始める暮らしのエコ』としていることからわかるように、環境問題への市民の意識を高め、いろいろな取り組みを促す「エコライフめぐろ推進協会」が、会員向けに発行している『かたつむり通信』という小さなメディアの巻頭エッセイだ。

本日、第2回目の原稿(タイトルは「スマホをエコの味方に」)を提出したので、第1回目の原稿をここに転載してみよう。

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「手作り」から始める暮らしのエコ①

発酵食が面白い

“エコ”を実現するために暮らしのなかで手がけていることの一つや二つは、誰にもあるだろう。「食」はエコの大きな柱の一つだが、多くの消費者は「安全で、できるだけ安く、美味しくて、健康によくて、手軽に作れて……」という、全部が満たされることなどおよそありそうにはない望みを持っている。買い物の際にどれを優先するかで毎日悩んでいる。

その悩みを一挙に解消してくれるのが発酵食だ。

私は味噌、ヨーグルト、ぬか漬けをずっと長く手作りしてきた。甘酒と塩麹も、麹が余った時に手作りする。キムチと納豆も欠かしたことがない。

例えば味噌で言うと、私は毎年20名くらいの大人や子供たちを集めて「味噌づくり講座」を開いている。高度成長期以降、家庭での「手前味噌」が姿を消し、いまや大半の日本人はビニールのパック詰めをスーパーで買っている。この講座はその手前味噌を復活させる試みだが、やってみるとわかる驚きの事実がある。

1年1回10kg(夫婦2人で毎日2杯のお味噌汁を飲むことで消費できるくらいの量)を仕込むのに要するのはたった数時間。最上級の大豆と麹と塩をそろえても材料費は5000円ですむ。手作りは至極簡単で、できあがった味噌はじつに美味しい。

塩麹も簡単で、麹に塩と水を加えて発酵させるだけ(乾燥米麹と塩と60度ほどの湯を4:1:5くらいの重量比で混ぜて1日1回かき混ぜて1週間ほど常温で寝かせる)。見た目は甘酒に似ていて、味はほんのりと甘辛い。肉や魚や野菜といったほぼどんな食材にも使えて常温で保存ができる。コウジカビの働きで食材に含まれるデンプンやタンパク質が分解され甘味と旨みが引き出されるので美味しくなるし、肉を漬けると軟らかくなり食感もアップする。焼いたり炒めたりすると、綺麗な焼き色に仕上がり、照りや艶も加わって食欲をそそる。言うことなしの万能調味料だ。

発酵食品は保存も効く上に、元の素材にはない栄養が加えられ、含まれる微生物の働きでヒトの腸内環境を整えるなど、生ける健康食品そのものだ。発酵を担うコウジカビ、酵母、乳酸菌などは私たちの生活環境中でごく普通に生息しているので、好みの環境さえ整えてやれば、勝手に集まってきて勝手に増える。生ものを放置しておくと腐ってしまうが、その腐り方をひとひねりすればたいてい発酵に持ち込むことができる。

手作り発酵食の魅力は、“再発見”ブームを繰り返しながら、脈々として新たな愛好者たちを生み出している。あなたもその流れに乗ってみてはいかがだろうか。

(『かたつむり通信』2024年4月号)

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