エッセイ・ルポ漫画の可能性

書物

ふだん漫画を読まない人でも、漫画が物語・フィクション以外の領域で、単にイラストとしてでなく、いろいろな役割を担った表現手段になっていることは承知しているだろう。

かく言う私も、小学生の頃に手にして、今ではタイトルも出版社もまったく思い出せないが、本の背が崩れてしまうほど繰り返し読んで、医学・生物学に興味を持つきっかけの一つになったのが、「人体の不思議」を扱った理科学習漫画だった。日本史や世界史にシリーズ物の学習漫画で親しんだ日本人はおそらくものすごい数に上るだろう。

「学習系」を含めて、ノンフィクションの漫画はどう分類できるかを考えてみるのは、なかなか面白い。例えば最近、古書店で偶然目にして、「まあ100円か200円だし、何となく面白そうだから」と買った次の2冊は、名前もまったく知らなかった著者たちだが、読んで驚きの、まさに漫画でしか伝わらないだろうテイストを持った秀作だった。

カラスヤサトシ『カラスヤサトシの日本文学紀行』

おがたちえ『汚部屋掃除人が語る命が危ない部屋』

前者は明治期大正期の文学がやたら好きな著者が、数多くの小説のなかの「風景」を切り取ってその前後のストーリーを点描するのだが、疑問に思ったことを古書を漁って自分なりに検証することまで行っている。マニアックだが、絵柄の味わいで読ませてしまう。「薀蓄&推理エッセイ」と言ったところか。

後者は「ルポ」に相当するものだが、内容の凄まじさは上記リンクで試し読みすればわかるだろう。確かに現代の「闇」の一つを捉えている。文章だけではリアル感を出すのが難しい、逆に映像だとリアルすぎて敬遠される、その現実を、漫画だからこそ(ユーモアさえこめて)伝えることができるのだ、という気がする。こうした「実話・体験ルポ」で漫画が果たせる役割はかなりあるように思う。

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