高橋多佳子 ショパンリサイタルを聴いて

音楽

 先週の金曜日、原産会議年次大会でパネリストを務めた直後、四谷にある紀尾井ホールに向かい、待望の高橋さんのショパンを聴いてきました。

 高橋さんの演奏全体が、ショパンの魂に捧げる祈りになっていると感じられるような演奏会でした。

 ショパンの晩年の伝記的な事実と高橋さんなりにそれをどうとらえているかを、演奏の合間に(3度)話されたのですが、曲を聴く側にしてみると、それがたくまずして、演奏を受け止める心の準備になったのかもしれません。ほんとに飾らないお人柄がにじみ出る語りで、皆が心を一つにして演奏に耳を傾ける雰囲気が自然にできてしまうようでした。演奏は、CDの録音と寸分たがわないほど精度の高いもので、それ自体も驚くべきことでしたが、私はそのことに加えて、あれほど全身のエネルギーのかけて大曲を引き終わった直後に(高橋さん自身はほっそりとした華奢な感じの人なのですが)、呼吸の乱れもまったく感じさせないで語り出せるせることに、プロのすごさをこわいくらいに感じてしまいました。

 心憎い演出が1つありました。コンサートの最後の演奏曲目は、ショパンの絶筆となったマズルカ(へ短調、作品68-4、遺作)でした。高橋さんがそれ弾き終わると会場が暗転し、数秒間闇に包まれました。余韻に浸ることができるのは本当だったのですが、「ピアニストも姿を消してしまうのかな……」と不安がこみ上げてきた瞬間に灯りがともり、ピアノの前にそのままの姿でたたずんでいるのが目に入り、なんとも言えないいとおしさで心が満たされたのでした。

 日曜日の山野楽器でのプロモーションイベントでは、打って変わってすごくカジュアルな感じのいでたちで、さっそうと舞台にあがってきて、いきなり「英雄ポロネーズ」を弾いて皆の心を奪い、ソナタ第3番の終楽章の華々しい演奏で聴衆を圧倒させて締めくくるというものでした。一番前の席で、高橋さんの手の動きをつぶさに見ながらでしたので、非常に興味深かったです。

 演奏が終わってサインをいただく機会があるだろうと思ったので、CDを持っていきました。「以前メールをいただいた者です……」と切り出すとすぐに気づかれたようで、初めての対面が実現しました。偶然ですが、その日は自分の誕生日だったので、いただいたサインの日付も自分のために記されたような気がして、ドキドキしてしまいました。誕生日なんて、何にも特別な感慨は抱かなくなって久しいのですが、こんな誕生日なら歓迎です!

 というわけで、忙しかったこの1週間に、高橋さんの実演に魅せられる日が2度あったというお話でした。

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