夏目漱石が『明暗』のなかで、マルクスの『資本論』とおぼしき書物のことを取り上げているのをご存知だろうか。主人公津田が読了したいと思っていた本として「経済学の独逸書」が出てくる。
漱石は英国留学時に『資本論』と出会っていることは比較的よく知られていることらしく、それをテーマにした新書も書かれている(『漱石と「資本論」』(小島英俊+山﨑耕一郎、祥伝社新書)。三好行雄編『漱石文明論集』(岩波文庫)には、留学中の漱石が義父に宛てた手紙が収められていて、そのなかに、「カール・マークスの所論の如きは単に純粋の理窟としても欠点これあるべくとは存候へども今日の世界にこの説の出づるは当然の事と存候」の一文がある。
漱石は金銭をめぐるエゴイズムにとりわけ敏感だったようで、財産の不平等や貧富の差が甚だしいことに怒りの目を向けていたことは、すでに『吾輩は猫である』からもうかがえる(金田一党)。
日本の近代文学で、「経済」を不平等・不正義の観点からみつめて、作品にその思いを織り込んでいる作家が、プロレタリア文学の作家たち以外にどれくらいいるか、私は詳しくないが、漱石は間違いなくその一人だという気がする。
漱石と資本論
本の話
