階段を降りるハト

生活

動物の思いがけない動作を目にして心がときめく、ということがある。

単に「可愛い」「面白い」「珍しい」というだけでなく、「なぜこんな行動をとるのだろう」と思案し始めると、さまざまな疑問が尽きることなく湧き上がってきて、しばらくは他のことが考えられなくなる。(私は動物生態学・動物行動学の研究に没頭して食べていける人が、この世の中で一番幸せな人だと思っている。)

先日、新御茶ノ水の駅を出て駿河台の方を抜けて目的地に行こうと、地下の広場のようになっているところから地上部の「仲通り」に上る階段に向かって歩いていた。人はまばらで、40段ほどあるその階段(横幅は数メートルはありそう)には3、4人くらいしかいなかったか。

私は複数の締切を抱えていて、あまりそれらの作業がうまく進んでいないので、かなりイライラした気持ちでいた。

階段を登ろうと、視線を上に向けると、なんとハトが上の方の段からトン……、トン……、トン……、と一段ずつ跳ねるようにして降りてくるではないか。「トン」の間は2、3秒あって、決して慣れているふうではなく慎重に恐る恐る身構えて「トン」と飛び降りているのだ。全部を降りきるまでに1分ほどもかかったか。その姿があまりに面白いので釘付けになり、立ち止まってずっと見入っていた。

「このハト、(周りにいる人のことも気にしないで)絶対楽しんでやっているに違いない」と思えると、心の底から晴れ晴れとした愉快な気持ちになって、イライラが完全に吹き飛んでしまった。

下に降りたければ、羽を使って一気に飛んでいけるはず。それをわざわざ、一段ずつ降りるなんて。それとも、ハトの視野からすると、下に降りる階段を目の前にすると飛びにくい何らかの視界が形成されるのだろうか。いや、ひょっとして羽を怪我している飛べないハトだったのだろうか。でも、そうだとすると、上の段には上がれないはず(ハトの足の跳躍力ではどう考えても一段を上がることはできそうにない)。わざわざ下に降りる理由がない。きっと何かの拍子に、「トン」と跳ね降りることの快感を覚えたに違いない。それにしても「羽を怪我して飛べない鳥」は何日くらい生きられるものなのだろうか……。こんなことを、道すがら、ずっと考えてしまったのだった。

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