電車内奇譚その5

生活

「電車内奇譚」をアップしたその日に、まさか、新たな「奇譚」が生まれようとは思ってもみなかった。

なんとも嫌な世の中になってしまったな、という気がしてならない。

ラッシュ時もとっくに過ぎた時間に、事務所に向かうために、ある駅で地下鉄に乗った時の出来事だ。

私の記憶では、ホームに人はまばらで、次に来る地下鉄を待って乗車口に何人も人が並ぶなどということはまったくない状況だった。たぶん私は考え事をしながら、電車が到着して開いたドアからささっと車内に入って、空いた席―座席の半分くらいは空いていた―に座ったのだと思う。

すると、わざわざという感じで私の前に立った40歳くらいに思えるちょっと背の高い感じの男が、スマホを私に突きつけるようにして、じっとしている。

なんとなく違和感を覚えて、その立っている男に目をやると、なんと、その男はスマホを持っている手を思いっきり伸ばして、私の顔面に思いっきり近づけてきたのだ。スマホ画面で何か読んだり見たりしているとは到底思えず、「ええっ、こいつ撮影しているのか?」と気味が悪くなって、私は向かい側の空いた席に移動して座り直した。

するとその男は、なんと、またしてもスマホをかざしながら私を追い、撮影してきたのだ。

さすがに私はこれはとんでもないことをされているぞと感じて、立ち上がってその男に向かって「オイ、何をしているんだ!」を声を荒げて注意した。するとそいつは人を小馬鹿にしたような吐き捨てる感じの小声で「割り込み男を撮影してるんだよ」と言うではないか。「ハァ? あんた何を言ってるんだ?」と言うと、「俺の後ろに並ばなかっただろ」と言いながら、まだ撮影を止めない。つまり私が激昂して問い詰めているシーンまで撮影しているのだ。

呆れ果てて、「こいつは精神を病んだヤバい奴かもしれない」と思い、座り直して、見て見ぬふりをした。電車が次の駅に到着して乗車口の扉が開くと、その男は、「ネットにアップするからな」と捨て台詞を吐いて、出ていった。

こんな犯罪まがいの行為を、常習的に繰り返している男がいると思うと、心底ゾッとする。

私はYouTubeをはじめネットに顔をさらしているから、この男が私をどこの誰かを特定するのは、いまや簡単だろう。私はこんな、卑劣な行為をするチンケな男にはまったくめげることはないが、それでも何とも言えない気持ち悪さに心が萎えてしまって、立ち直るのに少し時間がかかってしまったのだった。

二度とないこととは思うが、今後は車掌さんや、場合によっては警察に通報するしかないのかもしれない。

なんでこんな世の中になってしまったのだろう……。

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