街でみかける人のほぼ全員がスマホを持つ時代になった。そのうちの平均すると何割くらいが、ほぼいつも「歩きスマホ」をしていると言えるだろうか。2割くらいか。あるいは通勤電車の中の「座りスマホ」はどうか。その率はおそらく9割に達するだろう。
電車の中で座っている人も立っている人も、ほとんどがスマホに見入っていて、動画を眺めていたりLINEで読み書きしていたり……というのはしごく当たり前の光景になっている。
スマホを持たない私は、いまだにその光景に違和感を覚えてしまいはするが、むろん、なんということなくやり過ごすことはできる。でもその「先」を行く状況に出くわすと、そうはいかなくなる。
先日の朝方、到着する電車を待って並んでいた際に、私の前に立っている人がスマホをいじっていた。かなり混んでいる時間帯で、私は列の一番後ろにいた。電車が到着して、開いたドアから入ろうとするのだが、そのスマホ男の歩きがじつにのろい。スマホ画面に見入っているからだ。突き飛ばすわけにもいかず、ドアが閉まるすんでのところで滑り込んだ。その本人は、こちらの焦りにまったく気づかずじまい。
その日の夜、帰りに乗った電車も混んでいた。幸運にも空いている席に座ることができたが、隣には40代半ばとおぼしき中肉中背の女性がいた。スマホの操作に熱中しているらしいことは座る前から目に入った。座ってすぐに、なにやら、その人と右上腕の部分が接触した覚えはなかったのだが、いきなり、そこを軽く押し返されて、ビクッとした。「えっ、何か僕失礼なことをしてしまった?……」と思ってその人の手元をみると、左手で握りしめたスマホの画面を右手で必死にスワイプしている姿が目に入った。ゲームである。
右手で画面を激しくいじるだけならまだしも、時々、痙攣するように肩を揺らし、むろん大声ではないが隣の私にははっきり聞こえる程度に、「ヒッ」とか「アッ」とか短い奇声をあげる。傍若無人どころか、まったく周りに人がいないかのように没入している。
電車から降りて家までの路を歩いていると、向こうから若い男が歩きスマホをして接近してくる。もうこのまままっすぐ歩いて、ぶつかってやろうか、とも思ったが、これまた直前に私の方から身をかわした。その男、なんと左右の手に一台ずつスマホをもっていて、私の姿がまったく視野に入っていなかったようだ。危ないったらありゃしない。
まあ、一日にこんなふうに相次ぐことなど、めったにはないだろうが、スマホを持たない私をますますスマホ嫌いにさせた出来事ではあった。