点訳・音訳の世界にふれる

NPO

この9月に北九州市立点字図書館が主管となって開催する第38回九州視覚障害者情報提供施設大会(北九州大会)で講演する(9月12日)。九州各県で活動する点訳・音訳のボランティアの方々と施設職員が一堂に会して、研修と交流を深める機会に、立ち会わせていただくことになった。

今まで視覚障害のことにはほとんど関わったことがない私に、なぜ講演のリクエストが来たのか。それは、岩波新書の『実践 自分で調べる技術』で「調べ方」のノウハウをいくらか系統的に書いたからだ。

視覚障害サポートと「調べ方」がどう関係するのか。リクエストを受けた当初私もそう思った。しかし今では、点訳・音訳の作業に「調べる作業」は必須であり、そうした作業に携わる方に少しでも役に立つお話ができるようにと、それこそ私自身が新たに「調べ」を重ねて、講演の準備をすすめている。

この準備の最初の段階で、私の友人のSさんに、Sさんのご友人で長年点訳ボランティアをしてこられたTさんをご紹介いただきじっくりお話を伺ったこと、そして北九州点字図書館のスタッフの皆さんと、私の方から事前に送らせてもらった質問事項をもとに、2時間ばかりオンラインでやりとりをさせていただいたことが、何より大きな手がかりになっていることは言うまでもない。

音訳・点訳のための「調べ作業」とは何か。

試みに、例えば大学で使うような何らかの専門の教科書の、任意のページを開いて、いくつかのパラグラフを朗読し、目の前にいる人にその朗読だけで内容を伝えようしてみてほしい。「この用語はどう読む(発音する)のが正しいの?」「挿入されている写真や図版はどう伝えるの?」といった疑問がすぐさま出てくるだろうし、そもそももし内容がまったく理解できない場合に、字面を音読したとして、それが相手に伝わるような「読み方」になっている保証はまったくない(読み方と内容の理解は切り離せないところがあるのだ)。

決して機械的「置き換え」だけで済ませられることではない、その「置き換え」でさえ、例えば同音異義語が多い日本語の場合に、そう意味伝達をどう的確に行うかは、それなりの工夫を要する。まして、専門的な用語や概念、歴史・地理・風土・民俗……に係る独特の語彙の「読み方」などは点訳者や音訳者自身が読めなかったり取り違えてしまう場合も出てくる。1冊の本の内容を伝えるのに、受け取り手が理解しやすいように、例えば「音テキスト」としてどう「訳す側」と「受け取る側(読む側)」が共通のルールを設けておくのがいいのか、補足的な情報をまとめればいいのか。……

これは、「市民科学」という、「調べ方」や「対話、意思疎通、コミュニケーション」といったことに常に留意しないではいられない活動に携わっている私にとっては、とても興味深い課題に思える。もう一度、私なりの講演の素案ができた段階で、点字図書館のスタッフの皆さんに相談し、ブラッシュアップして、本番に臨みたいと思う。

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