ユニークな物理学入門書

科学

世の中には、思いもよらないユニークな科学の入門書があるものだなと思わされた、最近の例を紹介する。

ある大学で学会が開かれた際に、昼食時に外食するために出かけようとして、学生がたむろするラウンジ―その日は土曜日だったので閑散としていたが―の横を通り過ぎたのだが、なんと大学図書館の廃棄本を並べたコーナーがそこにあって、「勝手に本を持っていけ」と言わんばかりだったので、ざっと眺めて、面白そうな1冊をいただいた。

それは『The Flying Circus of Physics』(「物理学の空中サーカス」)なる奇妙なタイトルが付いた224ページの本である。1975年に初版が出ているから、かなり古い本だ。1000問くらいの「問題」―その多くにイラストが添えられている―が、所狭しと並んでいるだけで、「解答」はない。そのかわりに、各問題にはタイトルと、参照すべき文献の索引番号が記されている。巻末の41頁はその文献リストで、なんと1632本の論文が並んでいる。

第1章から第7章が、それぞれ、「運動」「流体」「音」「熱過程」「電気と磁気」「光学」「視覚(あるいは幻?)」となっているが、扱っている問題がすべて、日常的に遭遇したり体験したりする現象をとりあげているのが、すごい。

例えば「1・1」(第1章の第1問)は「チョークの引っ掻き音」というタイトルを掲げて、チョークからあの嫌な引っ掻き音が出るのはどうしてか、その時の音の高さを決めているものは何か、そしてドアの開閉の軋みの音や、車で急ブレーキをかけた時のあの「キキーッ」という甲高い音がどうして出るのかを尋ねている。

確かに誰もが耳にしている「嫌な音」なのだが、「そんな音が出るわけは?(物理学で説明してください)」と言われると、ハタと考え込んでしまう……そんな問題をよく1000個も集めだものだな、と思う。

こんな問題もある(「5・4 水の中の硬貨」)

透明なグラスに水を入れて、コインを1枚底に沈める。それをある角度から眺めるとコインが水面に浮いているように見える。その時グラスの側面を両手で覆ってもその浮いたように見える状態は変わらないのに、今度は濡れた手で覆うと、あら不思議、浮いていたコインが消えてしまう。なぜ?

この本を使って物理学を小学生や中学生に教えたら、物理学が好きになる子どもたちがたくさん出てくるのではないか、と思えるのだが、いかがだろうか? 言及された論文を読みこなして勉強するのは、先生にとってなかなか大変だと思うが、それもまた非常に楽しいことのような気がする。

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