東京外環道地下トンネル工事に伴って2020年10月に調布市で陥没事故が起きたことはよく知られているが、ではその周辺地域で家屋・建物にどのような被害が出ているのかは、ほとんど知られていない。事業者は、亀裂や剥がれなどの損壊が生じた箇所に対して、あくまで各戸個別に補修を行うという対応しかなさず、それで「ことなき」を得ようとしているのだが、補修では収まりのつかない損壊も様々に発生していて、建物被害の全貌はまったく把握できないままになっている。
それではいけない、との思いから、昨年立ち上げた「外環振動・低周波調査会」で、現在、調布市つつじヶ丘エリアを中心に、1軒1軒の家を歩いて見て回り、被害状況を克明に記録するという作業を続けてきた。
この調査の結果は集会を開いて公表したりもしたが、調査をすすめるなかで気付かされた興味深いことの一つに、私たちは住宅・建物の部分的な名称をあまりよく知らない、という事実がある。
「犬走り」「鼻隠し」「破風」と聞いて、「ああ、あの箇所のことか」とわかる人がどれくらいいるだろうか。
和室の畳、襖、床柱、鴨居くらいは知っていても、それ以上となると、ほとんど知らないのではないか。
こうした「建築用語」「和語」が私たち使う日常の語彙からどんどん消えているだろうことは、かなり意味深い。「住まいは買って住むだけのもの」という業者任せの慣習、そして日本の伝統建築そのものが庶民の生活から遠ざかっていった経緯……などの事情が反映しているに違いない。