それを聴けば、夏の厳しい暑さが和らぐような、涼しさを感じさせる音楽ってあるだろうか?
高原の冷気やそよ風を思わせる、澄み切った、決してうるさくならない音楽。
例えば、以前ブログで紹介した、以下のフルートの曲(『オルシアの物語』の特に第一曲)などはそれに相当するように思う。
「風」を手がかりにそうした曲を集めてみることができるだろう(武満徹の曲なども入ってきそうだ)。
もう一つのキーワードは、きっと「水」になる。「水」を描いたり、テーマにしたり、表題にした曲は音楽は少なくない(誰しも、リストやラヴェルやドビュッシーの曲をすぐ思い出すだろう)。
じつは、「クラシック」ではないけれど、「水」の曲で私にとって絶対に外せない、素晴らしい曲がある。幸い、全部が聴けるのでそれを紹介しよう。
EPOという歌手のアルバム『AQUA NOME』に収められている「春の水」という曲だ。
私は、聴いてみたいクラシックの曲を時間をなんとか時間の捻出して聴くのが精一杯で、いわゆるポップスの曲にまで目配りはとてもできないのだが、それでも偶然耳に入ってきた素晴らしい女性の歌声だけは(男声にはまったく興味なし)、ほうっておくことができないたちだ。「今の歌手、誰だろう?」と気になっていろいろ聴いてしまう。大半は声は良くても歌詞がつまらないなどの理由で、すぐに「圏外」の存在になってしまうのだが、ポップスの数名の歌手(海外を含む)については入れ込んでしまい、ことあるごとにCDなどを手に入れて聴き続けることになる。
私にとって、EPOはそうした「圏内」の代表的歌手になっている。
「春の水」はこんな曲だ。
清冽な川の流れを思わせる、インテンポで駆け抜けるギターの調べの上を、息の長い馬頭琴の旋律と絡むようにして、自在な間合いと音程(微分音的なゆらぎを含む)で歌われる。その歌唱の技術は飛び抜けたレベルに達しているのではないだろうか。もちろんそんなことを意識せずとも、冷たい清らかな水の流れに身を浸すような感覚に包まれてしまう―そんな4分半をもたらしてくれる曲なのだ。