世界文学の名作の子ども向けリライトのこと

本の話

もし、『ガリバー旅行記』や『ドン・キホーテ』や『西遊記』など、数多ある世界文学の名作のそれぞれについて、いったい何人くらいの人に読まれてきたか、その移り変わりを数字で出すことができたとすると、なかなか興味深い結果がみえるだろう。ただ、「子供向けにリライトされたものを除く」となると、いくつかの作品に関してその数字は大きく変わるだろうと思う。実際、『ガリバー』はまだしも、長編である『ドン・キホーテ』や『西遊記』などを岩波文庫などで原作で読み通した人はどれくらいいるのだろうか。

名前は誰でも知っているが、長すぎて(さらに日本の古典の場合は古文であることもあって、原文はなおさら)、通読した人はきわめて稀であるだろう作品のトップテンを挙げるとすれば、何が来るだろうか。『源氏物語』『失われた時を求めて』『戦争と平和』……。

子供向けのリライト版は、それを通読したからといって、原作を読んだことにはならないが、「まったく読まないよりはまし」といえる面もあると同時に、逆に「それで読んだつもりになってもらっては困る」といえる面もあり、その存在意義をどう考えればいいのか、なかなか微妙だ。『ガリバー』から「小人の国」「大人の国」だけを取り出して童話風に扱うのは、原作が持つ風刺文学としての比類のない価値をまったく損ねてしまうことになるだろうし、『ドン・キホーテ』もまた「風車に突進する場面」ばかりが有名で、原作を読めばそれがいかにパロディと風刺のオンパレードで―しかもメタフィクション的などんでん返しの手法も斬新で―「人間の勇気」についてこれほど深く考えさせてくれる物語はない、と断言したくなるほどの作品だ、ということが伝わらない。

子供向けリライト版の需要はこれからもなくならないだろうから―私自身もそれらの恩恵を被ってきたクチでもある―ぜひ、「あとがき」を設けて、「原作はもっともっと面白いから、いつか読んでみてね」と誘いかける一文を入れるようにしてもらいたい。

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