『アトム博士』シリーズ

本の話

古い本だが、科学入門漫画本として一時期話題になった『アトム博士……』のシリーズのうちの一巻、『アトム博士の電磁気学入門』を読んで、ちょっと驚いた。

石ノ森章太郎が漫画の「監修」をしているのだが、それは関係ない。というより、絵柄は石ノ森タッチではないので、自身で漫画を描いているわけではないことははっきりしているが、どう「監修」したのかは不明。裏表紙に若い頃の石ノ森の写真と自筆の名前が大きく出ているだけなので、出版社の宣伝に協力しただけ、と邪推するが、真相はわからない。

電磁気学がわかったと言えるのは、マクスウェル方程式がわかり、使えるようになった、というあたりが大きな基準線になると思うが、さすがに漫画でそこまでは立ち入らない。ただ高校の物理で習うフレミングの法則やキルヒホフの法則あたりまで、また、電気回路や電波のことまで、日常的に接する電気現象の重要事項を、自由電子やイオンの話から説き及んで、物理現象や法則がイメージとしてつかめるように画で描き出しているのは、なかなか見事というほかない。

映像や写真では、映り込んだもの・写し込んだものそれ自体は、「嘘」を含まないはずで、「嘘」や「創作」を含まないからこそ、何より確かな「証拠」にもなり得るし、また、未知のもの・いまだ説明がつかないものを、そこに読み取っていくことで、探究のための新たな気づきや発見が見出されもするのだろうが、手で描く絵や漫画は(そして今ではCGの画像や動画は)、そうではない。

それはあくまで、人間が自然現象を見てそこから読み取るものを概念化し、その概念を自然に改めて投影して、理解可能となった姿を描き出すものであろう。

極論するなら、「映像=事実」であり、「描像(図像)=(現時点の)真理(の輪郭)」という区分けができるだろう。

物理法則という「目には直接見えない概念」(原子や分子、場合によっては素粒子が織りなす、高度の構築性をもった系統だった世界)を、どう視覚的にイメージできるようにするか、というのは、思い他難しい仕事であるはずだ。この『アトム博士……』という冒険的なシリーズも、絶版になって久しく、その後類書がいっこうに出ないのも、そのあたりに理由がありそうだ。

海外では、ラニー・ゴニックという漫画家が、驚異的な幅広さで、いろいろな学問分野の入門書を漫画で描いて孤軍奮闘しているが、物理学・化学分野では、この『アトム博士……』が一枚上手である。図書館に児童書として収められているだろうから、興味ある人は覗いてみてほしい。

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