寺山修司は私にとっては、かなり胡散臭い、でもキラキラする、類のない面白さを感じさせられることもある作家、である。
映画館で見たことのある『田園に死す』は、「なんだかなあ」というレベルのものだったし、エッセイの多くは妙に「政治」を意識しているわりにはその先のツッコミが乏しいとの印象が拭えない。肝心の演劇を劇場で観たことがないので、そこは今後チャンスがあれば、とは思っている。
肩の力を抜いて、一筆書きっぽくサラサラと創ったような作品に―実際はそんなサラサラとはいかなかったのかもしれないが―キラリと光るものがあるのではないかと思える。
その代表例が寺山修司作詞・中田喜直作曲の歌曲集『木の匙』だと思う(全11曲)。
私はこれは確か高校生の時にラジオで聴いて、一度で好きになり(中田喜直の曲が素晴らしいこともあって)、それを録音したカセットテープを繰り返し鑑賞した。確か、往年の人気のバリトン立川清登とソプラノの島田祐子が歌っていた(ピアノは三浦洋一か?)。今でもリサイタルでよく取り上げられる「悲しくなったときは」はこの曲集に含まれている一曲だし、同じくこの中の「やがて生まれてくる子のための子守唄」は、私自身が友人の結婚式で歌って披露したこともある。もちろん楽譜も持っている。
いまやこの素敵な曲集の音源はCDでは手に入らないままで、とても残念だ。
これはぜひ、今の現役の若い歌手たちによって新しく録音していただきたい曲だ。