安旨ワインの選び方・楽しみ方

生活

市民科学研究室では一度だけ、お楽しみの会を兼ねて、市民科学交流会「お酒とうまく楽しく付き合うために」というのを開いたことがある(2019年3月31日)。また2024年からは「お酒の文化と科学 プロジェクト」も発足した。

「科学と社会」の問題を扱っているNPOで、こんなテーマを取り上げたところがあるかどうか、まったくわからないが、少なくとも私は、「お酒との楽しい付き合い方」は、十分に「科学と社会」が関係すると思っている。

2019年の集いで私が話したのは、「科学知を活用した安旨ワインの選び方・楽しみ方」だったが、科学知云々は措くにしても、安旨ワインをどう選ぶかを探っていくことは、他の種類のモノの購入や、ひいては消費行動そのものを改善することにも通じるヒントが得られるのではないかという気がしている。

私がこれまでに見つけたコツを記してみたい。

ここでは「安ワイン」は1000円以下のワインとする。1000円でも十分高い、と思う人がいても不思議はないし、一方、別に1500円でもいいじゃない、と言う人がいるだろうことももちろん想定できる。そのラインは人それぞれだが、ラインは合理的に決めなければならない。すなわち、自分がお酒にあてることのできる上限(あるいは適正)の金額はいくらかということと、自分がどれらくいの量を飲むのを適正な習慣とするのかということの両者のバランスで決まる。金がなくてたくさん飲みたいなら、500円というラインもあり得るが、残念ながらこれでは到底「旨い」ワインには巡り会えない。今までの私の経験からして、800円なら数名柄はギリギリ「旨」に達しているものもあるように思うが、果たして、その数種類を飲み続けることで「楽しめる」だろうか。それは無理だと思う。楽しめないようでは、お酒などそもそも飲んでもあまり意味はないように思う。

そこで、1000円がラインとして浮上する。そうすると、わたしの場合、飲むのはもっぱら夕食時に限られていて、1ヶ月の消費量は―私の5分の1ほどの量を毎回一緒に飲む連れ合いの分も入ってはいるけれど―750ml瓶で10本程度になる(月額1万円)。これを「土日は20%引き」(某スーパー)、「特定銘柄の10%割引券」(これも別の某スーパー)、「セール期間中は2本以上買うと10%割引」(某チェーン店)、そしてネットショップのお買い得のワインセットの購入……などをうまく利用して、年間で10万円を超えないように調整する。

このような買い方の設計をすると、自ずと出来てくるのが、「近隣地域の店での安旨購入マップ」とでも言うべきものだ。通勤などの日常の行動圏にはどんなお店があり、そこで安心して買える「安旨」はどれとどれか、を頭に入れておき、わざわざそこに出向かなくても、何かのついでに買って帰れるようにする。ネットでのワインセットの購入は、例えば10本のうち2、3本は「ハズレ」が混じるのが普通だから、リスクが高い。とは言え、「安旨」を見つけるための下準備と思えば、年に2、3回は利用してもよいと思う。ただし後に述べるが、そのショップがくどくどしく個々のワインについて書き記している、過剰な褒め言葉にあふれた宣伝文は、一切信用しないこと。ハズレが多いセットを提供しているショプとは、即、縁を切り、二度と利用しないのがポイントだ。

飲んだワインに評価点を付け、それを記録しておくことも大事だ。たいてのワインはその名前をネットで検索すれば写真とともにいくつかの情報が出てくる。それをPC上のノートにコピペして、さらに自分の評価を入力するのがいいだろう。あるいは、PCを開くのが面倒なら、手帳を用意して、名前・日時・評価点(10点満点で何点)と一言コメント、をさらされと書いておくのもいい。要は、今後も機会があれば買ってもいい、と「安旨」と認定したものが、どのワインだったのかが、後でわかればいいだけなので、つまり、「安旨」認定には至らなかったのに再びそれを買うことがないようにするために、そうしたメモを残すのである。

たまにだけれど、こうして選定した「安旨」のワインの1本なのに、以前と違って、不味く感じられるものに行き当たることがある。その原因は、ほぼ間違いなく、お店の側の保管の方法に問題があるから、だと思われる。なので、そうしたお店は要注意で、特に「在庫処分」で値引きされているものにそれが多いように思う。たとえ1000円までのワインで、当然開栓していないものであったとしても、ひどい味になることはあり得るのだ。私も過去に一度だけ、10本セットで買ったワインのほぼすべてが同じような味の劣化が起こっているケースに遭遇したことがあって、本当にがっかりさせられた。さすがに、店に抗議のメールを送ったのだが、梨のつぶてで、そのままになった。以後そのショップは利用しないことにした。

美味しいワインを選ぶ上で、良質のワイン専門店の店員さんと仲良くなっていろいろ教えてもらうことができれば、それに越したことはないように思えるが、如何せん、専門店には1000円以下のワインをいろいろ取り揃えているところはほぼない、と言っていいだろう。そこで頼りになるのが、ワイン好きの個人ブログ、である。「安旨」にこだわっている人の人気ブログも複数ある。時々それらをチェックして、「ほお、こんなワインがあるのだ」と見聞も広げておくと、買い物のセンスに磨きがかかる。特に、自分が選んだ「安旨」が、そのブログの主も高評価している、ということは、お互いの好みが似ていることを意味するので、そのブログには大いに注目することになる。いわば、サイバー上の「ワイン選びの先達」であり、一番確かな情報源、ということになるように思える。

どんな趣味・嗜好でも、それをどんどん深めていけば、一般の人からマニアックと言われるレベルに達することになる。自分にとっての安旨ワインを100種類選び出すことができて、それらの銘柄、ぶどうの種類、生産国などを言えるとしたら、それももうかなりハイレベルのワイン好きということになりはしまいか。趣味の世界も学問と同じで、知れば知るほど知りたいことが出てきて、好奇心がさらにかき立てられる。せっかく選び出した安旨ワインなのだから、その安旨の「秘密」を探ることができたら、楽しみ方の幅がぐっと広がることになる。「1000円もしないのにこれだけ旨いのはなぜなのか」という問を手がかりに、「ワイン学」の奥深い世界に、つまみ食い的でもよいから触れてみよう。

楽しみ方の幅を広げるという点では、1年に1回はワインの試飲会に出かけてもよいだろう。4000円から5000円ほどの参加費がかかるものが多いように思うが、普段めったに口にできないだろう高級ワインも味わえたり、その相性に思わず唸らされる小皿料理に出会えたり、そしてソムリエからいろいろな蘊蓄を聞き出したり、時には海外のワイン生産者と直接話ができたり……となかなか楽しい時間を過ごすことができる。

「安旨」からは選外になってしまうものばかりなのが残念ではあるが、国産のワインがどんどんレベルが上ってきているらしく、1000円から2000円までのもので相当美味しいものが一昔前に比べて随分多くなってきているように思われる。そうなると、旅先で少し足を運べばワイナリーに立ち寄れそうなことがあれば、そこを訪ねて見学させてもらうのも、よい経験になるだろうと思う。

どんな食べ物飲み物でも、心からそれが好きになると、やはり生産者とつながりたくなるものだ。そのつながりができれば、それがまた、その品を愛でる気持ちをたかめることになる。これまで輸入ばかりに頼っていたワインも、またそうした道が開けてきた、と言えはしまいか。

タイトルとURLをコピーしました