三善晃没後10年の追悼コンサート

音楽

11月とは思えない強い日差しが照りつけるなか、4日(土)に南武線谷保駅から線路沿いに歩いて約10分のところにある国立市民芸術小ホールに赴きました。

このホールは保谷第四公園、国立市役所とひと連なりになっていて、コンサートの後は公園でくつろぐこともできます。この公園は、じつは2週間前の土曜日に、「えねこや」さんのイベントで(「第25回環境フェスタくにたち」での出展)、市民研のスタッフと一緒に訪れたばかりでした。

私が聴きにでかけたのは、「MUSIC DAY IN KUNITACHI 2023 三善晃没後10年記念事業」として2日にわたって行われたもののうちの2日目「三善晃の世界」というコンサートでした。
(実際にはこのプログラムに記されているものよりもっと多くの曲が演奏された。)

1日目に行けなかった人でも、1日目に演奏された、「四つの秋の歌」と「会話」「トルスⅢ」は2日目にも聞けるようプログラムが組まれていました。没後ちょうど10年を今年で迎える三善晃のマリンバや打楽器を用いた室内楽を中心に、その足跡を振り返るにはまたとない企画であるため、このコンサートのことを実施の4日前に知った私は、慌ててネット予約したのでした。

私がこの作曲家の作品と出会ったのは高校生の時ですが、以来ずっと行けそうな演奏会には出向くようにしてきましたし、レコードやCD、そしてラジオなどで放送されるものも、できるだけ逃さないうようにして聴き続けてきました(ビクターのLP3枚組の『三善晃の音楽(1962-1970)』を高校生の時に背伸びして買ったのが、今となっては自慢と言えるか……)。2013年に80歳でお亡くなりになった時に「偲ぶ会」にも足を運び、このような文章を綴ったことがあります(「2013私のおすすめ3作品」に収めている)。

今回のコンサートで何よりも興味深いのは、2020前にCD
『三善晃作品集「Tribute to Miyoshi」』
を英国のLinnレーベルから出した、日本を代表するマリンバ・打楽器奏者の加藤訓子さんが―ご自身は桐朋学園で当時学長を務めていた三善晃からの指導も受けておられる―同じ桐朋学園出身の若手20名ほどに声がけして、初期の作品から晩年の未出版の練習曲まで、幅広く様々な編成の、マリンバと打楽器を中心とする室内楽を(歌曲や独奏曲もありました)、一気に披露した点です。

加藤さんが進行役を務め―私はたぶん最も近い位置に座っていた―、曲の紹介や三善晃との思い出を語りつつ、各曲の演奏後には、後輩の演奏者たちに三善作品へどんな具合に取り組んでみたかなどを尋ねてやりとりする……。午後2時から始まったコンサートが3時半になっても、予定されたプログラムの半分も終わっていない……。途中に10分の休憩が2回入りましたが、結局終わったのが夕方の6時半近く。これでチケットが3000円とは、信じがたい気がしました。

200人くらいは入れそうな会場でしたが、席が半分弱くらい埋まっていた、という感じだったでしょうか。なんとももったいない。というのも、このコンサートは、これまでに私が体験した音楽演奏会のなかでは、最も素晴らしい、と言ってもよいほどのものだったからです。でも会場はほどよい人数となっていて―集まった方々は桐朋学園の関係者が多かったのかもしれません―とくにかく、並の大人数のコンサートとは違って、聴衆全員の集中力が伝わってくるような雰囲気で、咳払いなどもほとんど聞かれませんでした。

曲は、初期の叙情性の高い歌曲(「四つの秋の歌」)から始まって、三善の代表作の一つである70年代の「レクイエム」という頂点に向かう感のある、非常に緻密で息詰まるような緊張度の高い、室内楽作品群―三善のいろいろな曲作りの技法がうかがえて大変興味深かった―が披露されるという流れでしたが、三善が影響を受けたアンリ・デュティユーの歌曲が冒頭で歌われたり、「2台のマリンバのための協奏的練習曲」と対比させる形で、フランスの現役の作曲家フィリップ・マヌーリの作品が演奏されたりしました。マリンバと打楽器を演奏する若手の大半が女性で、予想されたこととは言え、タムタムやシンバルや銅鑼(ゴング)をはじめ何種類もの打楽器の間を俊敏に巡りつつ激しい音響の渦を作る様、そして素人には驚異としか思えない鮮やかなバチさばきの姿に、一瞬の隙も与えない楽曲の峻厳さが相まって、ただもう圧倒されるばかりでした。特に、今まで一度も聴く機会のなかった「トルスⅤ
3台のマリンバのための」は、まるで憑依した3人の巫女たちをみているような恐ろしい迫力で、聴き終わってしばらく身体の震えと、どういうわけか涙が滲んでくるのを抑えることができませんでした。

このような緊張の連続に耐えることができたのも、加藤さんの話がすべての曲の合間合間に挟まれて、その緊張をほぐすことができたからでしょう。

そして最後の締めは打って変わって、優しくも気高い、アニメソングの「きこえるかしら」「さめないゆめ」(アニメ『赤毛のアン』に三善が付けた曲)の「マリンバ合奏+3人の女声歌手」バージョン、そして三善がマリンバ合奏用に編曲した「荒城の月」と「この道」の4曲でした。

これらの演奏がどれほど美しく、会場すべての人の心を打ったか―。その場にいらしただろう、三善晃と親交のあった人たちも、そうでない人も、心のなかに三善晃への追悼の気持ちが込み上げてきて涙を流していたのではないでしょうか。

ほんとうに素晴らしいコンサートを実現してくださった、加藤訓子さんと演奏者の皆さんに心からの感謝を捧げたいと思います。

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