Beatrice Berrut (ベアトリス・ベリュ)という、スイス出身の若い(といっても今年40歳になる)ピアニストがいる。
日本ではあまり知られていないピアニストのように思えるが、ヨーロッパでは人気がある人だとのこと。
私はつい最近NMLの「新着タイトル」で知ったばかりで、8枚ほど出ているCDのうちの2枚を聞いただけだ。
しかし、その2枚のうちの1枚が、始めて耳にすることになった、ピアニスト自身による編曲ものであり、それが素晴らしい出来だと思えたので、今後大いに注目したピアニストとしてここに簡単に紹介しておきたい。
聴いたのは、「ユーゲントシュティール」と題されたもので、少し美術史に詳しい人なら、この言葉がフランス語の「アール・ヌーヴォー」に相当するものだと知っているだろう。19世紀末から20世紀初頭にかけてのドイツ圏の世紀末芸術の傾向を指す語だ。このアルバムでは、マーラーの交響曲第3番、5番、6番からの部分的な楽章(それぞれ4,2,2楽章)とシェーンベルクの「浄夜」が奏でられている。
「えっ、オーケストラの曲をピアノで?」―そう、べリュ自身がピアノへの編曲をしているのだ。その編曲と演奏でべリュは、後期ロマン主義の卓尾を飾る、官能的で濃厚な(終末的とも言える)「美」を見事に掬っている。
冒頭に置かれたマーラーの交響曲第5番第4楽章(アダージョ)の演奏がYouTubeにあがっているので、聴いてみてほしい。
また、シェーンベルクの「浄夜」のピアノ編曲をどうてがけたかを彼女自身が語っている動画もある。
なおこの曲の全曲演奏はこちら
こうしたピアノによる演出力・技量は、リストのピアノ曲にもきっと向いているだろうと考え、もう1枚を聴いてみたが、予想通り、深い音色と彫りの深い輪郭をもった音作りで、大変味わい深いリストの演奏になっていた。
以下のサイトで現在視聴できる動画がまとめて紹介されているので、ご覧になってはいかがだろうか。
年の初めに、このような素晴らしいピアニストに出会えたことを喜びたい。